大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和31年(ネ)318号 判決 1963年4月09日

控訴人(被告) 北海道知事 外一名

被控訴人(原告) 土屋広司

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却する。控訴人北海道知事が控訴人浅野誠二に対し昭和二六年三月二日なした別紙目録記載の土地についての売渡処分は無効であることを確認する。控訴人浅野誠二は右土地についてなされた所有権保存登記の抹消登記手続をせよとの判決を求める旨訂正申立をした。

被控訴代理人は請求の原因として

一、釧路市鳥取町二四番地の二畑三反一八歩(以下単に本件土地という)は前所有者訴外太田芳市から被控訴人が昭和一四年頃借り受け耕作していた土地で国に買収されたから被控訴人は鳥取町農地委員会に売渡の申込をし控訴人北海道知事から昭和二四年三月三〇日D第一〇一、七八八号をもつて旧自作農創設特別措置法(以下単に自創法という)第一六条の規定により売渡処分を受けた同所畑三反五畝の一部であつてその売渡通知書は昭和二四年七月一五日被控訴人に交付され、被控訴人は昭和二四年八月六日売渡の対価金二三五円二〇銭を納入したので本件土地は売渡通知書に記載された売渡時期の昭和二二年一〇月二日をもつて被控訴人の所有となつた。

二、然るに本件土地につき昭和二六年三月二日頃重ねて控訴人北海道知事から従前耕作権を有していない控訴人浅野誠二に対して売渡処分がなされ、昭和二六年五月一一日控訴人浅野誠二名義に所有権保存登記がなされているが、前述のように本件土地は被控訴人の所有であつて国の所有でないことが明瞭であるから、控訴人北海道知事は本件土地を処分する権限がなく、従つて控訴人浅野誠二に対する売渡処分は当然無効である。

三、而して本件土地につき昭和三六年八月二三日土地区画整理法に基づく換地処分により別紙目録記載の土地がその換地として指定公告され右換地処分に基づく登記手続がなされたから、被控訴人は控訴人北海道知事が本件土地従つてその換地である別紙目録記載の土地につき控訴人浅野誠二に対してなした売渡処分の無効確認を求めるとともに、控訴人浅野誠二に対し無効の売渡処分に基づいてなされた所有権保存登記の抹消登記手続を求めるため本訴に及ぶと述べ、右主張と相容れない控訴人等の抗弁事実はすべて否認する。仮りに控訴人等主張の土地交換契約がなされたものとするも控訴人浅野誠二は交換の目的に供した農地の所有権を有せず従つて右農地所有権を被控訴人に移転することができない。右契約において控訴人浅野に所有権あることを前提としこれを契約の要素としたのであるから右交換契約は要素に錯誤あるため無効であると述べた。

控訴代理人は本案前の抗弁として、被控訴人は本件土地を昭和二四年三月三〇日D第一〇一、七八八号売渡通知書をもつて売渡処分を受けたと主張しているが、右売渡通知書に被控訴人に売渡すべき土地として記載されている土地は本件土地とは地番及び地積を異にする釧路市鳥取町四四番地の二の内畑三反五畝歩であつて控訴人浅野誠二に売渡処分された本件土地三反一八歩とは別異の土地である。即ち鳥取町四四番地の二は昭和五年七月二三日訴外小野熊太郎外三名に所有権が移転し、昭和一一年二月二五日訴外飯塚吉明に共有持分権が移転し、昭和二二年一〇月二日買収により農林省へ所有権が移転し、昭和二六年三月二三日鳥取町二四番地と合筆され、更に同日鳥取町二四番地畑二町二反八畝五歩は鳥取町二四番地の一、同上番地の二(三反一八歩)同上番地の三、及び四の四筆に分筆された。両者は所在箇所を異にする別個の土地であるから被控訴人は本件土地三反一八歩について何ら法律上の利害関係を有しないから、当事者適格を欠き被控訴人の本件訴は不適法であると述べ、

本案の答弁として、本件土地につき被控訴人主張の日に控訴人北海道知事が控訴人浅野誠二に対する売渡処分をなし控訴人浅野誠二名義にその所有権保存登記がなされたこと及び被控訴人主張の換地処分が行われこれに基づく登記手続がなされたことは認めるがその余の被控訴人主張事実を否認する。本件土地は被控訴人に対しその売渡通知書の交付によつて売渡処分のなされた土地とは地番地積の異なる別個の土地である。仮りに両者が同一の土地であるとしても、被控訴人に対する売渡通知書に表示されている土地は釧路市鳥取町四四番地の二の内畑三反五畝歩であり、右売渡の当時の土地台帳によれば同地番の地積は四畝二三歩にすぎないから被控訴人に対する売渡は現存する土地の地積以上の売渡で、存在しない土地に対する売渡処分であり、仮りに右地積が他の四四番に跨るものとして四四番地の内のどの部分であるか売渡すべき土地の範囲を明示しない不確定な処分であるから無効である。また控訴人浅野誠二に対しては旧自創法施行令第一八条第二号の規定により売渡されたものであり、同人は売渡の相手方たるべき資格を有する農家であるから同人に対する売渡処分に瑕疵はない。仮りに以上が理由ないとしても昭和二四年の暮訴外岩田武男(当時鳥取町農地委員)の斡旋により被控訴人と控訴人浅野誠二間において控訴人浅野は従前同人が耕作していた国有地鳥取町七四番地の一部を被控訴人に使用させ、これと交換に被控訴人は本件土地を控訴人浅野に使用耕作させることとしたが、その後昭和二五年春控訴人浅野、被控訴人及び訴外岩田間において右土地の使用に関し紛争が生じたので釧路市鳥取地区農地委員会は右紛争解決のため昭和二五年六月六日右三者出席の上農地調整会議を開き(1)控訴人浅野に対しては鳥取町七四番地の内二分の一の四反二畝歩を売渡すことに計画を変更する。(2)被控訴人に対し本件土地につきなされた売渡計画を取消し該土地は控訴人浅野に売渡す。(3)被控訴人に対しては鳥取町七四番地の残余の部分を貸付ける旨を決定し調停成立した。これに基づいて本件土地につき被控訴人に対しなされた売渡計画の取消は同年六月一二日開催の鳥取地区農地委員会によつて承認され取消処分がなされたから、被控訴人に対する売渡処分は失効した。従つてその後に本件土地につき控訴人浅野誠二に対してなされた売渡処分は適法であると述べた。

(証拠省略)

理由

控訴人北海道知事が昭和二六年三月二日本件土地である釧路市鳥取町二四番地の二畑三反一八歩につき控訴人浅野誠二に対して自創法第一六条に基づく売渡処分をなし昭和二六年五月一一日控訴人浅野誠二名義にその所有権保存登記がなされたこと及び昭和三六年八月二三日土地区画整理法に基づく換地処分により別紙目録記載の土地がその換地として指定公告され、右換地処分に基づく登記手続がなされたことは当事者間に争いがない。

先ず控訴人両名は被控訴人は本件土地につき何ら法律上の利害関係を有しないから当事者適格を欠き本件訴は不適法であると主張するので按ずるに、成立に争いない甲第三、第四号証、乙第一、第二、第四、第五、第六号証、原審証人岩田武男の証言により成立が認められる甲第一及び第二号証、原審及び当審における証人岩田武男、同井出利明、被控訴本人の各供述と原審並びに当審における各検証の結果とを綜合すると、被控訴人は控訴人北海道知事から昭和二四年七月一五日発行のD第一〇一、七八八号をもつて自創法第一六条の規定により釧路市鳥取町四四番地の二の内畑三反五畝歩について売渡の時期を昭和二二年一〇月二日とする売渡通知書の交付を受け昭和二四年八月六日売渡の対価金二三五円二〇銭を納付したこと、その後昭和二六年三月二日控訴人浅野誠二が控訴人北海道知事から釧路市鳥取町二四番地の二畑三反一八歩について売渡処分を受けたこと、従つて被控訴人が売渡を受けた土地と控訴人浅野誠二が売渡を受けた土地とはその地番及び地積において異なるけれどもそれは鳥取町農地委員会が被控訴人に対する売渡処分の前提となつた農地売渡計画を樹立する際、被控訴人に対し売渡すべき土地として定めた畑三反五畝歩は当時公簿上釧路市鳥取町二二番地、九三番地等数筆の土地に跨つており、これ等の土地及び周囲の土地は政府買収の小作地であつたので売渡手続を適正ならしめるために被控訴人の右耕作地を含めた一七筆の土地を合筆してその地番を四四番地にまとめ更らに分筆して売渡登記をすることとし、その分筆を予定した被控訴人の耕作地を含む四四番地の二の地積が一町歩を超えていたので、右合筆分筆の手続未了中に被控訴人に対し売渡処分をするに当り控訴人北海道知事の売渡通知書に四四番地の二の内三反五畝歩と表示された。その後昭和二六年三月前記一七筆に二四番地農地数筆を加えて四四番地の地番で合筆すべき予定を前記地区農地委員会が変更し二四番地に合筆のうえ同日二四番地の一畑一町三反八畝二一歩、同番地の二畑三反一八歩、同番地の三畑三反五畝歩、同番地の四畑二反三畝二六歩に分筆した結果右二四番地の二畑三反五畝歩が買収並びに売渡処分当時における被控訴人の耕作地に該当するところその内被控訴人所有建物の敷地となつた四畝一二歩を除外して残余畑三反一八歩につき控訴人浅野誠二に対し売渡処分のなされたこと即ち被控訴人が買受の申込をして国から売渡を受けた農地と地番、地積こそ異つているが同一農地につき重複して控訴人浅野誠二に売渡処分がなされたものであることが認められる。従つて被控訴人は本件解放農地につき控訴人北海道知事の控訴人浅野誠二に対し重複してした本件売渡処分は被控訴人の権利侵害を招来すべきものということができるから、少くとも被控訴人はその救済を求める本訴につき当事者適格を有すべく、控訴人等の本案前の抗弁は理由がない。

控訴人等は控訴人北海道知事の被控訴人に対する鳥取町四四番地の二の内畑三反五畝歩を以て表示された前記農地売渡処分は実在しない土地に対する売渡処分であり且つ売渡地の範囲が特定されていない不確定の処分であるから無効であると主張するけれども、前顕各証拠によれば、被控訴人は昭和二〇年一一月二三日前から土地所有者飯塚吉明より土地所有権譲渡を受けた訴外太田芳市から前記鳥取町二二番地、同所九三番地等に跨る畑三反五畝歩を借受け耕作していたので、鳥取町農地委員会に右小作地の遡及買収による買受の申込をしたので同農地委員会が被控訴人耕作の現地を調査測量の上耕作地三反五畝歩につき売渡計画を樹立したのであるが、買収農地の売渡手続を簡捷ならしめるための合筆分筆手続の進行中右売渡処分をした農地三反五畝歩が合筆分筆される四四番地の二の一部に該当し、将来売渡登記をするとき更らに被控訴人に対する売渡土地の地積に合致する分筆手続をする予定の下に控訴人北海道知事が四四番地の二の内畑三反五畝歩と表示して売渡通知書を発したのであつて、右四四番地の二の面積、範囲、及び右の内売渡さるべき土地の範囲が右売渡通知書に表示されてはいないけれども売渡の当事者間においては現地につき明確に認識されていたこと及び控訴人北海道知事が右売渡処分をした当時公簿上鳥取町四四番地の二畑四畝二三歩が存在していたけれども右土地は本件土地の附近に現在し熊坂某が耕作、解放を受けた農地で被控訴人が売渡を受けた前記三反五畝歩とは別個の土地であつて昭和二六年三月合筆の結果土地台帳閉鎖されたものであることが認められる。従つて被控訴人に対し交付された本件農地売渡通知書に売渡すべき土地の範囲を明示しなかつた点に手続上の不手際は認められるけれどもこれがために右売渡処分自体を違法ならしめるものということができない。従つて被控訴人が昭和二四年八月六日売渡対価を国に納付したことが前示認定のとおりであるから、被控訴人は本件土地三反五畝歩の所有権を取得したものといわなければならない。控訴人等は被控訴人に対する右農地売渡処分は昭和二五年六月一二日鳥取地区農地委員会によつて取消されたと主張するけれども、右地区農地委員会は知事のした農地売渡処分を取消し得る権限は与えられておらないのみならず、右地区農地委員会が取消処分をしたことを認むべき証拠がないから控訴人等の右主張は採用できない。

従つて、鳥取町四四番地の二の内畑三反五畝歩として被控訴人の耕作農地三反五畝歩が被控訴人に売渡処分がなされ被控訴人の所有に帰したのにその登記手続未了の間に鳥取町二四番地の二畑三反一八歩と表示して右解放農地の内三反一八歩が控訴人浅野に重複して売渡処分されたのは控訴人北海道知事が権限なくして国の所有地でない土地を処分したのであるから後者は所有者被控訴人の意思に反するものである限り売渡処分が有効なるべき前提要件を欠く行政処分であつて、この場合その瑕疵は重大明白なものといわねばならない。ところで控訴人等は前記売渡処分が控訴人主張の土地交換契約に基づく便宜の措置としてなされたものであると主張するから按ずるに、成立に争いない乙第七号証の一、二、当審証人岩田武男、井出利明、熊沢浅一、内山勝雄の各証言、当審における控訴人浅野誠二及び被控訴人の各本人尋問の結果を綜合すれば被控訴人は本件土地三反五畝歩の一隅に住宅を建て農業兼水産加工業に従事し右土地の一部を生魚の干場に使用していたが戦後右土地の周辺が宅地化されて干場に使用することが不適当となつたので、控訴人浅野の耕作する国有地鳥取町九七番地の土地に住宅を建て右土地を使用したため両者間に紛争を生じたので昭和二五年春鳥取地区農地委員訴外岩田武男の斡旋で本件土地三反五畝歩と右九七番地畑五反歩の各耕作使用権を交換する旨を控訴人浅野と約し、右契約に基づいてその頃被控訴人所有の本件土地上の住宅を訴外内山勝雄に売却し、本件土地を控訴人浅野に引渡したところ、被控訴人は訴外岩田武男との間に右九七番地の隣地七四番地の土地使用について紛争を起したために同年六月頃鳥取地区農地委員会が控訴人浅野、被控訴人及び岩田武男間に耕地の調整斡旋を計つた際、被控訴人が控訴人浅野との右耕作地交換契約の趣旨に副う便宜の方法として本件農地につき再度控訴人浅野に対し売渡計画を樹てることに異議を述べなかつたために右地区農地委員会が本件農地三反一八歩につき控訴人浅野に対し売渡計画を樹て、これに基づいて本件売渡処分がなされたのであつて、行政庁が故らに被控訴人の権利を害することを知りつつ土地の合筆分筆手続をして本件重複売渡手続を遂行したものではないことを認めることができる。右認定に抵触する原審並びに当審における証人岩田武男の証言部分並びに当審における被控訴本人の供述部分は信用し難く、他に右認定を左右すべき証拠がない。被控訴人は前記土地交換契約は控訴人浅野に前記九七番地農地の所有権あることを前提としこれを明示してなされたところ、同控訴人は所有権を有しないのであるから右契約は要素に錯誤あるから無効であると主張するけれども当審における控訴人浅野誠二本人尋問の結果によれば被控訴人が右交換契約においてその目的である本件農地三反余が解放農地であることを相手方控訴人浅野が知るときは交換に応じないことを知つて、解放農地であることを秘し双方の土地の耕作使用権を以て交換の目的とすることを右当事者双方が表示して契約したことが認められるから、右契約の要素に錯誤あるものということができないし、また契約の要素に錯誤があつたとしても表意者である被控訴人に重大な過失があるから被控訴人の右主張は採用できない。従つて控訴人浅野に対しなされた本件農地売渡処分はその農地所有者である被控訴人の意思に反することなくその手続が進められたものであること及び右農地の売渡処分当時買受人である控訴人浅野においてこれを占有耕作しており、右売渡による所有権取得登記を経たものであることが先きに認定したとおりであるから、控訴人北海道知事のした本件農地売渡処分には重大且つ明白な違法あるものということができない。

果してそうであるならば本件土地売渡処分は法律上当然無効ではないのであるから、無効であることを前提として控訴人両名に対し本件土地売渡処分の無効であることの確認を求め、控訴人浅野に対し本件土地(換地処分前の土地)所有権保存登記の抹消を求める被控訴人の本訴請求は他の点につき判断するまでもなく失当として棄却を免れない。従つて被控訴人の右請求を認容した原判決は不相当で取消さるべく、民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条を適用した上主文のとおり判決する。

(裁判官 南新一 輪湖公寛 藤野博雄)

(別紙目録省略)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

被告北海道知事が、被告浅野誠二に対して昭和二十六年三月二日なした別紙目録記載の土地についての売渡処分は、無効であることを確認する。

被告北海道知事は、原告に対して別紙目録記載の土地について所有権移転登記手続をなせ。

被告浅野誠二は、別紙目録記載の土地について所有権保存登記の抹消登記手続をなせ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一ないし第四項同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一 別紙目録記載の本件土地を含む釧路市鳥取町二十四番地の二畑三反五畝は、原告が被告北海道知事から昭和二十四年三月三十日D第一〇一、七八八号をもつて自作農創設特別措置法(以下単に自創法と称する。)第十六条の規定により売渡処分を受け、その売渡通知書は昭和二十四年四月十五日原告に交付され、原告は昭和二十四年八月六日売渡の対価金二百三十五円二十銭を納入したので、本件土地は売渡通知書に記載された売渡時期の昭和二十二年十月二日をもつて原告の所有となつたものである。

二 しかるに、本件土地は昭和二十六年三月二日頃重ねて被告北海道知事から被告浅野誠二に対して売渡処分がなされ、昭和二十六年五月十一日被告浅野誠二名義に所有権保存登記がなされている。

三 元来、本件土地は原告が前々所有者訴外太田芳市から昭和十四年頃借り受けて耕作していた土地であつて、原告は本件土地が買収となるや、訴外鳥取農地委員会に売渡の申込書を提出して前述のように売渡処分を受けたものであるのに反し、被告浅野誠二は本件土地について何らの使用関係を有しないものであるから、原告に対して売渡処分がなされたことは誠に相当といわねばならない。

四 ところが、被告北海道知事は原告に売渡処分をした同一の土地をさらに被告浅野誠二に対して売渡処分をし、その登記手続を完了したのであるが、前述のように本件土地は原告の所有であつて国の所有でないことが明瞭であるから、被告北海道知事には本件土地を処分する権限がなく、したがつて、被告浅野誠二に対する売渡処分は当然無効である。されば原告は本訴において、被告北海道知事が被告浅野誠二に対してなした本件土地に対する売渡処分の無効確認を求めるとともに、被告北海道知事に対して本件土地の原告に対する所有権移転登記手続、被告浅野誠二に対しては、無効の売渡処分に基く所有権保存登記がなされているからその抹消登記手続を求めるため本訴に及ぶ。

と陳述し、右主張に反する被告北海道知事の主張事実はすべてこれを否認する、と述べた。

(証拠省略)

被告北海道知事指定代理人は、本案前の申立として、本件訴はこれを却下する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求めその理由として、原告は、本件土地を昭和二十四年三月三十日D第一〇一、七八八号をもつて自創法第十六条の規定により売渡処分を受けたと主張しているが、右第一〇一、七八八号(昭和二十四年七月十五日発行、売渡時期昭和二十二年十二月二日、対価二百三十五円二十銭)に記載されている土地は釧路市鳥取町四十四番地の二の内畑三反五畝であつて、この土地は本件釧路市鳥取町二十四番地の二畑三反十八歩とは別個のものである。すなわち、鳥取町四十四番地の二は、昭和五年七月二十三日訴外小野熊太郎外三名に所有権が移転し、昭和十一年二月二十五日訴外飯塚吉明に共有持分権が移転し、昭和二十二年十月二日買収により農林省へ所有権が移転し、昭和二十六年三月二十三日鳥取町二十四番地と合筆され、さらに、同年同月同日鳥取町二十四番地畑三町二反八畝五歩は鳥取町二十四番地の一、同上番地の二(三反十八歩)、同上番地の三、同上番地の四の四筆に分筆されている。したがつて、両者は全く別個な土地であつて、原告は本件土地について何ら法律上の利害関係がないものであるから、原告は本件訴につき当事者適格を欠き、本件訴は却下を免れないものである、と述べ、本案につき、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、請求の原因第一項は否認する、第二項は認める、第三、第四項は否認する、と述べ、さらに、

一 前述のとおり、本件土地は原告に対して売渡処分のなされた土地と別個の土地であるが、仮りに両者が同一の土地であるとしても、原告に対する売渡処分は次の理由によつて無効であるから、本訴請求は失当である。すなわち、原告に対する売渡通知書に記載されている土地は、釧路市鳥取町四十四番地の二の内畑三反五畝であり、しかして、土地台帳謄本によれば同地番の地積は四畝二十三歩にすぎないから、原告に対する売渡は現存する土地の地積以上の売渡で、存在しない土地に対する売渡処分であり、仮りに右地積が他の四十四番地にまたがるものとしても、四十四番地の内のどの部分であるのか明示されていない不確定な処分であるから、無効といわなければならない。

二 また、被告浅野誠二に対しては、自創法施行令第十八条の規定により売渡されたものであり、同人は売渡の相手方たるべき資格を有する農家であるから、同人に対する売渡処分に瑕疵はない。

と述べた。

(証拠省略)

被告浅野誠二訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、請求の原因第二項のみ認めてその余の事実を全部否認する、と述べた。

理由

被告北海道知事が昭和二十六年三月二日本件土地につき被告浅野誠二に対して売渡処分をなし、昭和二十六年五月十一日被告浅野誠二名義にその所有権保存登記がなされたことは、当事者間に争いがない。

まず被告北海道知事の、原告は本件土地につき何ら法律上の利害関係を有しないから本件訴は不適法であるとの本案前の主張について案ずるに、原告および被告北海道知事との間において成立に争いのない甲第三、第四号証、乙第一、第二、第四、第五、第六号証、証人岩田武男の証言によつて真正に成立したと認められる甲第一、第二号証、証人岩田武男、同井出利明の各証言および検証の結果を綜合すると、原告は、北海道知事から昭和二十四年三月三十日D第一〇一、七八八号をもつて自創法第十六条の規定により「鳥取町四十四番地の二の内畑三反五畝」について売渡処分を受け、昭和二十四年四月十五日、売渡の時期を昭和二十二年十月二日とする売渡通知書の交付を受け、昭和二十四年八月六日売渡の対価金二百三十五円二十銭を納付したこと、その後、昭和二十六年三月二日被告浅野誠二が被告北海道知事から「釧路市鳥取町二十四番地の二畑三反十八歩」について売渡処分を受けたこと、しかして、原告が売渡処分を受けた土地と被告浅野誠二が売渡処分を受けた土地とは、その地番および地積において異るけれども、それは、訴外鳥取農業委員会が原告に対する売渡処分の前提となつた農地売渡計画を樹立する際、同訴外委員会は、原告に三反五畝の土地を売渡すとすれば、右三反五畝の土地は一筆の土地ではない上に、その附近は農林省所有のそれぞれ地番の異る十七筆の土地であつたため、これらをさらに分筆した上でなければ売渡すことができない事情にあつたので、事務上の手続の煩雑さをさけるべく、右三反五畝を右十七筆の土地と一応全部合筆してその地番を四十四番地という一個の名称に統一することを予定し、原告に対する売渡地を四十四番地と表示したのであるが、その後事務上の手違のためか、公簿上は二十四番地と表示されたものであり、したがつて、現在は公簿上四十四番地という地番は存在せず、四十四番地の二の内畑三反五畝というも、また、二十二番地の二畑三反五畝というも全く同一の土地を指すこととなるのであるが、後、さらに被告浅野誠二に対して右土地を売渡す際、同地の実測をしたところ、右土地の内四畝十二歩に原告所有の家屋が建造されていたので、その部分が宅地として除外された結果、被告浅野誠二に対する売渡処分は、三反十八歩についてなされたものであることがそれぞれ認められ、原告および被告北海道知事間において成立に争いのない乙第四号証によつても右認定を覆えすことはできず、他に右認定を左右するに足りる証拠は存在しない。そうだとすると、原告は本件土地につき被告浅野誠二に先立つて売渡処分を受けているのであるから、被告北海道知事の本案前の主張が理由のないものであることは明白である。

よつて進んで本案について判断するに、被告北海道知事は、同被告の原告に対する売渡処分は実在しない土地に対する売渡処分であり、かつ、売渡地の範囲が特定されていない不確定な処分であるから無効であると主張するけれども、前認定のとおり、原告に対する売渡処分における土地の表示と、被告浅野誠二に対する売渡処分における土地の表示とは、地番および地積がそれぞれ異るけれども、全く同一の土地であり、さらに前顕各証拠を仔細に検討すると、原告および被告浅野誠二ならびに被告北海道知事との間においては、本件土地の所在およびその範囲が明確に認識されているものであることが充分に窺えるので、被告北海道知事の右主張は理由がない。その他、原告に対する売渡処分が無効であることについて主張立証がない以上、原告は被告北海道知事から売渡通知書の交付を受けた昭和二十四年四月十五日に、同通知書に定められた売渡の時期である昭和二十二年十月二日に遡つて本件土地の所有権を取得したこととなるから、その後における被告北海道知事の被告浅野誠二に対する売渡処分は当然無効であつて、被告北海道知事は原告に対して本件土地の所有権移転登記手続をなすべき義務があり、被告浅野誠二は無効の売渡処分に基いて本件土地の所有権保存登記をなしたのであるから、これを抹消しなければならない。

よつて、原告の本訴請求はすべて正当であるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(昭和三一年一一月六日札幌地方裁判所判決)

(別紙)

目録

釧路市鳥取町二十四番地の二

一、畑 三反十八歩 以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例